配偶者居住権がくる。
配偶者居住権の制度が、民法改正(2018年7月6日公布)を経て2020年4 月1日に施行されましたので、
今後、施行日以後発生の相続で配偶者居住権が登場することとなります。
相続税の申告期限は、相続発生から10か月ですから、2020年4 月1日の10か月後、
2021年2月1日以降申告期限の相続税から、配偶者居住権が登場する可能性があります。
正に直前のこの時期、配偶者居住権の内容と税務を確認しておきましょう。
(1)配偶者居住権って何?
読んで字の如く「配偶者が居住する権利」です。
後に触れますが2種類あり、いずれも無償で被相続人の死後に
その配偶者が居住をし続けることができる権利です。
配偶者のみ得ることができる権利ですので、
配偶者が優遇されているような気がしますね。
①背景
なぜこのような制度が法制化されたのでしょうか。
背景には2013年の、非嫡出子の相続分1/2の
公平化改正(改正前民法第900条第4号一部削除)があると言われています。
このとき、非嫡出子とそうでない子との相続分の差が無くなり公平化されましたが、
以下のような影響もありました。
→前制度における非嫡出子は、改正後は相続分増加
→同様に遺留分侵害額請求権の額が増加
→遺留分を侵害していた場合、配偶者が多くの請求を受けるリスク
建物・土地を子が相続したケースで、
所有者ではない配偶者へ居住する権利を与えなくてはならないケースを想定し、
その時に配偶者居住権が出てくる可能性があります。
違和感のある方もいるはずです。
子が相続したとしても、所有者となった子が親(被相続人の配偶者)に対し、
出ていってくれと言うわけがない、と思うかもしれません。
要は配偶者と子の仲が悪く、結果、
配偶者が被相続人と居住していた家屋が相続できなかったりしたときに
取得者である子から出ていけとなれば、
それはそれで配偶者にとり酷な結果ともいえます。
非嫡出子の相続分、遺留分が増えることは、
こんなケースを生む一因にもなると想定されました。
そんなときに配偶者居住権が使えれば、
住む場所は確保され生活し続けることができます。
②2つの配偶者居住権
配偶者居住権は2種類あります。
-
配偶者短期居住権(民法第1037①)
-
配偶者居住権(民法第1028条①)
短期配偶者居住権
相続開始時、被相続人の建物に配偶者が無償で居住していた場合、
次のいずれか遅いときまで引き続き、
その建物を無償で使用することができる権利をいいます。
イ.相続開始日から6か月経過する日
ロ.建物の遺産分割の確定日
※ただし、配偶者が相続放棄をした場合には、別に期限に決まりがあります。
短期配偶者居住権は短期で消滅することが予定されています。
この権利は、以下の配偶者居住権とは同時に成立できないとされており、
あくまで、相続直後の配偶者の居住権を保障する権利でして、
その役目を終えた後は消滅するか、配偶者居住権(☟)に引き継ぐこととなります。
配偶者居住権
相続開始時に、被相続人の所有建物に配偶者が無償で居住していた場合、
終身又は遺産分割や家庭裁判所の審判により決めた一定期間、
配偶者にその使用及び収益をすることができる権利をいいます。
短期配偶者居住権と違うポイントは以下などがあります。
A. 相続税計算のため財産評価の規定がある
B. 終身が可能
C. 登記が可能(登録免許税が2/1,000と、相続登記4/1,000よりも安い!)
D. 遺産分割、遺贈、死因贈与、調停、審判で取得する
E. 相続開始前に被相続人と配偶者以外の者とが建物を共有していたら認められない
F. 賃貸し収益を得ることができる
特にA.があることによって、相続税計算に関わってきますので、ツボを押さえておく必要があります。
(2)相続税と配偶者居住権の評価
配偶者居住権を評価する場合、以下,イ.~二.の4つの評価が登場します。
(相続税法第23条の2)
【建物部分】
イ. 配偶者居住権
ロ. 配偶者居住権が設定された建物の所有権
【宅地部分】
ハ. 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
二. 居住建物の敷地
評価の出発点はイ.の配偶者居住権の評価です。
以下で確認していきましょう。
イ. 配偶者居住権
【算式】
居住建物の時価※ー居住建物の時価※×(耐用年数ー経過年数ー存続年数)÷(耐用年数ー経過年数)×存続年数に応じた法定利率による複利現価率
※居住建物の一部や居住敷地の一部が賃貸、
又は、配偶者と共有の場合は、時価に一定の調整をする。
算式の一つ目のマイナスから右を、
配偶者居住権以外(存続年数経過後の残り)を
現在価値で評価していると考えるといいかもしれません。
配偶者居住権以外を計算し、
間接的に配偶者居住権の評価を導いています。
ロ. 配偶者居住権が設定された建物の所有権
【算式】
居住建物の時価 ー イ.の評価
即ちイ. + ロ.=居住建物の時価となります。
建物についての評価額と耐用年数、存続期間との関係は以下の図で表されます。
『配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例』2020.7,国税庁課税部資産評価企画官,4P
ハ. 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
【算式】
居住建物の敷地の時価※- 居住建物の敷地の時価×存続年数に応じた法定利率による複利現価率
これは、イ.の算式と似ています。
配偶者居住権が消滅する時点の敷地の現在価値を計算し、
敷地の時価から差し引くことで、やはり間接的に計算しています。
なお、土地は建物のように時の経過で価値減少しないため、
耐用年数や経過年数を考える必要性が無く算式に登場しません。
二. 居住建物の敷地
【算式】
居住建物の敷地の時価※- ロ.の評価
これも、ハ. + 二.=居住建物の敷地の時価となります。
遺産分割有りのパターンですが、土地は以下のような図で表されます。
『配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例』2020.7,国税庁課税部資産評価企画官,6P
(3)評価例
評価の前提
≪計算例≫
●前提
○2020年4月1日以後の相続
○相続人:配偶者(女性)と子1人
○配偶者の相続時年齢:75歳
○相続税評価:建物1千万円、宅地2千万円
○建物(住宅用・木造)の築年数 13年
○前提から必要な計算
・建物の耐用年数:22年(木造)×1.5(居住用の倍率)=33年
・残存耐用年数:33年-13年(築年数)=20年
・存続年数(終身)=平均余命年数=15年 ※1
・存続年数15年に応じた民法の法定利率による複利原価率 0.642 ※2,※3
※1厚生労働省「簡易生命表統計表」
※2国税庁「複利表」
※3民法の法定利率は2020年4月1日より3%となり、その後3年ごとに見直される。
以下のように、評価することができます。
(4)配偶者居住権で節税できるのか
さてここで、配偶者居住権を節税に使用できるのか考えてみたいと思います。
解説したいのは、1次相続、2次相続まで考えた場合において、
節税になるときを想定することができます。
以下A~Cのパターンについて検討してみましょう。
被相続人の建物の評価額の、相続税評価への反映
A. 1次相続:配偶者が所有権を取得、2次相続:子が所有権を取得
→1次で100%評価だが配偶者控除適用、2次で建物100%評価
B. 1次相続:子が所有権を取得
→1次で建物100%評価、2次無し
C. 1次相続:配偶者が配偶者居住権建物を取得&子が所有権を取得
→1次で100%評価だが配偶者には配偶者控除適用、
子には配偶者居住権が設定された建物の所有権評価、2次無し
Cのケースが最も「評価を低くする」効果があることを想定することはできます。
しかしながら、これではあまりにも不確定要素が多いです。
●一次相続の被相続人と、2次相続の被相続人の財産総額がいくらなのか
●Aで、2次相続で子が小規模宅地特例を適用できるか否か
●相続人数、相続分 等々…
税計算要素をトータルで考え節税額を計算しないと、
減税にならないことは十分想定されます。
配偶者居住権も含め、相続税対策をトータルで検討されたい方は、
弊所まで是非ご相談下さいませ。