令和2年の年初から新型コロナの影響で、
飲食業や観光業を中心として収入の減少により
企業経営が不安定な状況が続いており、
廃業さらには倒産する企業も例年以上に多くなることが予想されるところです。
不幸にも取引先が倒産した場合は、
貸倒処理はどうすればよいのでしょうか?
今回は、「破産」に特化して法人税の処理を考えてみたいと思います。
法人税の取扱いで、
法律上の貸倒れについては、法人税基本通達9-6-1がありますが、
その中に「破産」についての記載はありません。
破産は裁判所がする手続きなのに法律上の貸倒れとされていないのは、
破産により債権の額が法律的に切り捨てられるということではないからです。
では、税務上は、取引先が破産した場合の損金性、
つまり貸倒損失計上の時期はどう考えればよいのでしょうか?
「破産申立」や「破産手続開始決定」によって、
直ちに貸倒れ処理が認められるものではなく、
一定の事実の発生が損金処理要件となっています。
1 法律上の貸倒れの適用(法人税基本通達9-6-1)
破産法においては、
破産手続が終結したとしても
配当により弁済されなかった部分について免責許可決定があったとしても、
破産者の保証人や担保提供者に対して有する権利や担保については影響を及ぼさず、
破産手続終結の決定そのことをもっては、
法人税基本通達9-6-1の法律上の貸倒れに該当しません。
ただし、破産した債務者に対して
書面で債務免除を行って債権放棄をする(法人税基本通達9-6-1(4))ことができますが、
この場合であっても、債務者に対する贈与と認められる場合には、
寄附金となる場合がありますので注意を要します。
2 事実上の貸倒れの適用(法人税基本通達9-6-2)
事実上の貸倒れとして処理する場合は、
「債権の全額が回収できないことが明らかになった時」の判定が実務上のポイントとなります。
破産手続においては、
破産終結前に破産管財人から最後配当ができず
そのまま終結する旨の通知書が届いた時点で、
破産終結を待たずにその通知書を根拠として貸倒損失の損金算入が認められると考えます。
裁判所が出す「破産終結」、「同時廃止」または「異時廃止」があった場合は、
破産者の資産状況ないし支払能力は絶望的であることを示しており、
事実上の貸倒れとして貸倒処理できると考えます
(ただし、保証人や担保の受入れがある破産債権は貸倒処理はできません)。
貸倒れの時期については、次の国税不服審判所の裁決事例が参考となります。
【法人の破産手続と破産債権に係る貸倒れの時期】 《H20.6.26裁決》 法人の破産手続においては、 配当されなかった部分の破産債権を法的に消滅させる免責手続はなく、 裁判所が、破産法人に財産はないことを公証の上で出すところの 廃止決定または終結決定があり、 当該法人の登記が閉鎖されることとされており、 この決定がなされた時点で当該破産法人は消滅することからすると、 この時点において、当然、破産法人には分配可能な財産がないのであり、 当該決定等により破産法人に対して有する金銭債権も その全額が滅失したものとするのが相当であると解され、 この時点が破産債権者にとって貸倒れの時点と考えられる。
なお、破産手続の終結前であっても、 破産管財人から配当金額が零円であることの証明がある場合や、 その証明が受けられない場合であっても、 債務者の資産の処分が終了し、 今後の回収が見込まれないまま破産終結までに相当な期間がかかるときは、 破産終結決定前であっても、 配当がないことが明らかな場合は、 法人税基本通達9-6-2を適用し、貸倒損失として損金経理を行い、 損金の額に算入することも認められる。 |
【付録】 貸倒損失と損金経理要件と税務リスク
破産法の規定による破産債権は、
法律上切捨てという制度がないため、
破産手続終結決定そのことをもっては、
法人税基本通達9-6-1(法律上の貸倒れ)の貸倒れに該当しないとし、
最終的に回収不能が明らかになったときに、
事実上の貸倒れとして法人税基本通達9-6-2により
損金経理を要件として貸倒損失とするのが税務当局の考え方です。
これに対して、
裁判所が出す終結決定または廃止決定があった時点で法律上の貸倒れに該当するとし、
貸倒損失の損金算入について損金経理を必要としないとする意見もあります。
いずれにしても、
5年超の前に「全額回収不能が明らかとなった債権」、
「法律上の貸倒れとなった債権」を貸倒損失として処理しないでおくと、
損金とする時期を失ってしまい、
永久に税務上の損金とすることができなくなりますので、注意が必要です。
広島総合税理士法人