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広島税理士法人井戸端会議『財産債務調書制度の概要』

2018/02/28 [WED]

平成27年度税制改正において、従来の「財産債務明細書」制度が、「財産債務調書」制度に改組されました。

平成2811日以後に提出すべき調書から適用されます。

すなわち、財産債務調書を提出しなければならない者は、その年分の所得金額が2000万円を超え、且つ、その年の1231日において保有財産3億円以上か国外財産1億円以上を有する者です。

簡素に表現しますと、「所得金額2000万円超」and「保有財産3億円以上 or 国外財産1億円以上」となります。

ちなみに、この「財産債務調書」制度とは別に、「国外財産調書」制度というものがあり、こちらは所得金額に関係なく、その年の1231日において国外財産5000万円以上有する者が提出しなければならないことになっています。

このような改正がなされた背景には、平成25年における相続税改正により、相続税の基礎控除が4割も引き下げられ大幅な増税が予定されることとなり、裕福層が国外に財産を移転し、相続税や贈与税の課税を逃れる事例が後を絶たないためです。

「財産債務調書」の提出義務者は、生前において、事実上の「相続財産の概算申告」をすることと同義であると考えられますので、その後の相続税の申告に当たっては、被相続人が生前に提出した財産債務調書との整合性を適正に検証する必要があります。

<加算税等の特例>

過少に申告した或いは無申告であったことによるペナルティーである過少申告加算税又は無申告加算税の税率は、過少申告加算税は10(一定の場合15)、無申告加算税は15(一定の場合は20)ですが、「財産債務調書」制度及び「国外財産調書」制度については、適正な調書の提出を促すため、加算税等の特例が設けられています。

すなわち、所得税又は相続税の申告漏れがあった場合において、その申告漏れが、提出期限内に提出された調書に記載のある財産債務に起因している場合には、加算税は5%軽減され、逆に、調書の提出がないとき又は提出期限内に提出された調書に記載のない財産債務に起因している場合には、加算税は5%加重されます。

<不動産の評価>

財産債務調書に記載する財産のうち、多くを占めるのは不動産と金融資産であると推測されますが、いずれも調書に記載する価額は原則的には「時価」とされています。しかし、不動産についてはこの時価の把握が難しいため、見積価額などによることも認められています。

土地の時価として認められる具体例としては、路線価を基準にした相続税評価額、最近に有償で取得した場合にはその取得価額、その年分の固定資産税評価額又は固定資産税課税標準額が該当します。

建物についても土地と同様に、最近に有償で取得した場合にはその取得価額、その年分の固定資産税評価額又は固定資産税課税標準額、などが考えられます。

<金融資産の評価>

調書に記載すべき金融資産の区分としては、現金、預貯金、有価証券、匿名組合契約出資の持分、未決済信用取引等に係る権利、未決済デリバティブ取引に係る権利、貸付金、未収入金が示されています。

これらのうち、現金や預貯金、貸付金や未収入金などは残高がはっきりしていることが多いと思いますが、その他については時価の把握が簡単でないものもあり、特に有価証券のうち上場していない同族会社の株式などはその典型でしょう。

このいわゆる非上場株式の時価は、実務的には相続税を計算する際に使用する「財産評価基本通達」を基に算定することになると思いますが、この評価を適正に行う場合には、過去3期分の決算書の詳細な内訳と法人税申告書が必要となり、また、会社の規模に応じて国税庁が定める類似業種株価との比較が必要となるなど、ある程度の時間と労力を要します。

 

 

国外財産調書補足

(概 要)

その年の1231日において、その価額の合計額が5000万円を超える国外財産を有する方は、その財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書(以下「国外財産調書」といいます。)を、翌年の315日までに、所轄税務署長に提出しなければならないことになります。

 

(国外財産調書の記載事項)

国外財産調書には、提出者の氏名、住所(又は居所)に加え、国外財産の種類、用途(一般用及び事業用の別)、所在、数量、価額などを記載する必要があります。

 

(国外財産調書の適正な提出の確保策)

国外財産調書制度においては、適正な提出をするために次のような措置が設けられています。

イ  国外財産調書の提出がある場合の過少申告加算税等の優遇措置

国外財産調書を提出した場合には、記載された国外財産に関して所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても、加算税が5%減額されます。

ロ  国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置

国外財産調書の提出がない場合又は提出された国外財産調書に国外財産の記載がない場合(記載が不十分と認められる場合を含みます。)に所得税の申告漏れが生じたときは、加算税が5%加重されます。

 

出国税

平成27年度税制改正により、国外転出時課税制度(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)が創設されました。
この制度は、平成2771日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。)をする一定の居住者が、1億円以上の有価証券等を保有等している場合には、その有価証券等の含み益に所得税及び復興特別所得税を課税するという制度です。

株などの資産を1億円以上持っている人が海外に移り住む際、株などを売却していなくても、国外に出た時点で売却したものとみなし、株に含み益があれば所

得税等をかけるということです。

 税金の安い国に移り住む富裕層が後を絶たないため、出国時の水際で所得税をかけちゃおうというものです。
 富裕層の課税逃れへの水際対策だけであればなんとなく分かるのですが、困ったことにこの制度は一般的にもよくあるサラリーマンの海外転勤や、非居住者である相続人・受贈者への対象資産の移転にも適用がありますので注意が必要です。

 

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