2021/10/20 [WED]
つい最近、個人事業税に関する非常に重要な東京高裁判決(令和3年8月26日)が出ました。
コインパーキング業者に土地を貸している地主さん必読の内容です。
一言で言えば、地主からコインパーキング業者への単なる土地の貸付は「駐車場業」に該当せず、「不動産貸付業」として個人事業税の課税要件を判断するべきという判決です。
なお、東京都が最高裁に上告しなかったため、判決が確定しています。
事案の要旨:
東京都在住の地主が、他県でコインパーキング業者に土地を貸し付けていた。
コインパーキング業者がその土地にラインを引き、車止めを設置したうえで、収容台数10台以上の時間貸駐車場を運営していた。(→つまり典型的な、土地賃貸方式のコインパーキングです)
地代は毎月定額であり、地主自身はコインパーキングの運営や集客にはノータッチであった。
地主はこれを不動産所得(不動産貸付業)に該当し、個人事業税の課税要件を満たしていないとして、個人事業税を納付していなかった。
東京都はコインパーキング用土地の貸付は、「駐車場業」に該当し、個人事業税の課税要件を満たすとして個人事業税を追徴した。
判決内容の要旨:
「駐車場業」とは「対価の取得を目的として自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続して行うもの」である。
本件では、地主は単に土地を貸し付けているに過ぎず、駐車設備を設けて駐車場業を営んでいるのはコインパーキング業者である。
また、地主はコインパーキングの運営や集客にはノータッチであり、経営リスクを一切負っていない他、駐車場の稼働状況によらず地代は定額であるため、自己の計算と危険において独立して事業を営んでいるとは認められない。
従って地主は「駐車場業」を行うものに該当しない(つまり、納税者勝訴で、個人事業税の追徴が取り消されました)。
さて、これで一体何が変わるのでしょうか?広島県の個人事業税の課税要件を見てみましょう。
業種
|
貸付区分
|
事業と認定される基準
|
不動産貸付業
|
(1) 建物
|
一戸建住宅
|
10棟以上
|
一戸建住宅以外の住宅(アパ-ト、貸間等)
|
居住の用に供するために独立的に区画された一の部分の数が10以上
|
住宅以外(店舗、事務所、工場等)
|
5棟又は10室以上
|
(2) 土地
|
住宅用土地
|
貸付契約件数(一の契約において、2画地以上の土地を貸し付けている場合は、それぞれを1件とする。)が10件以上又は貸付総面積が2,000平方メートル以上
|
住宅用土地以外の土地
|
貸付契約件数が10件以上…①
|
(3) 前(1)及び(2)の基準に満たない一戸建住宅、一戸建住宅以外の住宅、住宅以外の建物、住宅用土地等種類の異なる不動産の貸付を併せて行っている場合
|
棟数、室数、土地の貸付契約件数の合計が、10以上
|
(4) 前(1)~(3)の基準に満たない不動産の貸付を行っている場合
|
貸付の収入金額が年1千万円以上で、かつ、建物の貸付面積が500平方メートル以上
|
駐車場業
|
建築物でない駐車場
|
収容台数10台以上(空き区画も含む)…②
|
建築物である駐車場(屋根付・立体式・地下式駐車場等)
|
収容台数は問わない
|
もし、本件のような土地賃貸方式のコインパーキングが「駐車場業」に該当する場合、②が課税要件となります。
つまり、10台以上の広さがあれば、個人事業税が課税されます。
ところが、「不動産貸付業」に該当する場合、①が要件となり、たとえ数十台の駐車スペースがあろうと、10件以上の土地賃貸借契約件数がないと、個人事業税は課税されないのです。
本件の東京高裁判決の影響は、今後全国に波及し、単なるコインパーキング業者への土地貸付けは「駐車場業」として取り扱わない方向で統一されるのではないかと予想されます。
なお、個人事業税の課税判断は都道府県ごとに異なっており、例えば埼玉県は従来から「駐車場業」として取り扱っていません。
コインパーキング業者に土地を貸し付けている方、もしかしてこれまで個人事業税を払ってきていませんか?
ぜひ、個人事業税の課税要件の再検討と、還付請求の可否を税理士にご相談ください。
広島総合税理士法人