当事務所の岡本税理士が進行役を務めました『特別企画:林芳正自由民主党税制調査会インナーに聞く』の記事が、中国税理士政治連盟の会報『中国税制連』2021年5月号(No.63)に掲載されました。
当HPでも、この記事を4回に渡って掲載します。
・第3回
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―― 相続税と贈与税の今後の在り方ということで、個人的には今回一番インパクトが強いと思っているのですが、贈与税の改正が予測されます。これについては今後、日本の税制の中でものすごいインパクトのある重要な内容が書いてあるなということで、目を皿のようにして読んでしまいました。この中でその目的が二つありまして、高齢世代から若い世代に早いタイミングで資産を移転するということと、一方でコロナ禍ということもあるのですけども、資産格差の是正。これはある面で正しい措置として認識しているのですけども、よく考えるとこれらは両立できない気がいたします。資産を持っている人が若い世代に資産を動かしたら資産格差が世代間で生じるし、かといって渡さなかったら使わないしということで、その点に違和感を感じると言いますか、同じ土俵の中で二つの議論をしていくというのは、いかがお考えでしょうか?
<林>そこはおっしゃる通りで難しいところがあるのですが、頭の整理としては、ここに書いてあるように、現状では高齢者から高齢者へ相続するというケースが増えてきています。昔は相続となると、相続人の方は現役世代にお渡しするというものだったのですが、今は100歳の方から80歳、70歳の方に相続するようなことになってきています。
そういう意味ではもう少し早く、本当に資金が必要な現役世代にお渡ししてはどうかいうことです。そうしますと相続が発生する前ですから、贈与税と相続税をなだらかに徴収していくという方法がひとつあり、これまでも教育資金の一括贈与の非課税措置を作ってやってきた流れと、そういうことをやると必ず出る問題として格差が拡大化されるため、おそらく再分配を主としてやるのは所得税であると。所得税で再分配をするということをもうちょっと言うと、消費税で社会保障の財源を充当すること自体が、実は社会保障のうち生活保護はもちろんですけども、社会保障をやることによって所得の再分配効果がかなり出てまいります。所得税の累進で再分配することと、消費税と社会保障の一体改革によって再分配することで、格差を是正すると同時に、今度は老老相続に対して消費性向の高い世代に確実に行き渡ることによってお金が社会に回る。これを両立させるというのが頭の整理だという風に考えています。
―― その中で、諸外国の例を見ながら大綱が記述されているのですが、大綱を読んでみると、現行の暦年贈与の3年内加算の規定を今後改正して精算課税的な課税方式に改正するのかなと思ったのですね。
書かれている内容からすれば、今の贈与税制というのは中立的ではないということがあり、ひとつは日本の場合、贈与税率はあまりにも高いので、本来的には贈与が使いにくいように作られてあるのだけれども、実際には税理士とかがいろいろ支援して節税のために対策をしている。これは世の中的にはあまりよろしく思われていないのではと思いました。だから贈与税については本来、相続税の補完税としての性格から、贈与税は中立的で移転の時期によって税金が変わるようなことをしない方が良いという風に読めました。その中で海外の例というのはよく調べていないのですが、例えばアメリカでは一生涯累積するということを念頭に入れて、そういう含みを持たせながら将来変わっていくということが書かれているのかなと思いますがその辺はどうでしょうか?なかなかお応えにくいことと思いますが?
<林>おっしゃる通りで、相続で役割を果たしてもらうためには、贈与税があまりハードルが低いと、みんなこっちに行ってしまって相続が発生しないということになってはいけないということで今までやってきました。逆に言うと、本来は基本的な考え方で相続税・贈与税一体的にやるべきところを、全体的な改革はなかなか難しいということもあって、まずは典型的な教育資金ですとか住宅資金というものに着目してやっていこうとして種類が少しずつ増え、結局いろいろなものに使われてしまう。あと、先程申し上げました相続税を機能させるために贈与税の性格が段々薄まってきてしまっているのではないかと思いまして、そろそろ本来的な贈与税と相続税の一体的な改革を行うこととして、大綱の18ページ②に移転時期の選択に「中立的」と書かせていただいております。従って、「諸外国では」の少し上には「現在の税率構造では富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある」ということですので、逆に言うとアメリカのように、どこで何をやって必要な時にどうやってということで、本当に必要なところに回るけれども、累積して公平に課税するいう形というのは我々も税調の中で紹介をしてもらって議論しました。理屈としては筋の通った例だろうと思います。これもどこかで変えると言うと、それに向けていろいろな動きがどうしても出てくるところが当然あるので、制度が決まればそれに対応して様々な動きがあるのは当然のことですから、それがあまりにも大きな経済的構造、例えば住宅にしても個人の大きな投資になるので、制度によって住宅産業の売り上げそのものに結構な影響が出るものですから、制度の変更によって住宅の売り上げが急速に減ったり増えたりがないようにしないといけないし、旧制度と新制度のバランスがあまりにも不公平だと遡及しろということになるので、そういうところに注意しながら議論しなければならないところです。
―― 今のお話だと、現在の暦年課税の三年内加算の規定が、三年から五年になって、それから七年になってというような、そんなイメージがあるのですか?
<林>短いと相続時期というのは父親や母親がいつ亡くなるかということに直結するので、それを見越してということにどうしてもなるのです。長くすればするほどそれにあまり関わりなく、こちらの本当に必要な時期にファイナンスする意味があるのではないかと思います。ただ、そうしますと中ではやっぱり贈与が間違っていたとか、いろいろなことが起きないのかとかいう議論がありまして、時期の選択に中立的と言えば長い方になるというニュアンスになりますね。断言はできませんが。
―― 一番矛盾するのが、貰っても使わないと景気が良くならない。使ってしまうと納税できなくなるので、それを税理士としては危惧します。使うのを促進する制度はいいのですが、使ってしまうと納税できないケースも出てくるのです。われわれ税理士の助言の多くは、暦年贈与の受贈者に対して、「これは使ってはダメですよ、納税資金に充てるんですよ」というようにむしろ「貯蓄」を促進している面もありますが・・・(笑)
<林> そこは、我々はずっと持っていて相続税で払っていただくよりはちゃんと消費をしていただいて、その分モノが売れて、相続の課税総額が減ったとしても、乗数で言えば日本経済に対する影響はそちらの方があるだろうという意味です。
―― 今は三年なので、毎年贈与を受けても三年間しか持ち戻せないですけども、親が持っている財産を三十年間三十万円ずつ贈与して全部戻された時に、精算課税として戻すじゃないですか。全てを消費してしまったら納税資金がなくなってしまう。だからアメリカみたいに長い期間でやると納税が困難な人が出てくる。贈与時に源泉徴収をすることも考えられますが・・・。
<林>もしそういうことが懸念されるのであれば、なんらか予防措置を講じるとか、そもそも最低限これぐらいは必要だと親の財産に残しておくとか、いろいろなことが考えられます。早くそういう議論ができればいいのですが。実際そこまでの本格的な検討を進めると書いてはありますが、住宅のみに着目してということではなく全体像の議論をやりますよという意味なので、そういう議論ができるようになれば、かなりゴールに近いと思いますね。
―― 今後110万円の基礎控除を上げるのではないかと思うのですよね。それでもっと贈与を促進するとか。
<林>そうですよね。教育とか住宅とかがかなり使命を終えてきているので、全体的な議論を行う中で、これらの見直しの代わりに、110万円を下げるという考えはあると思います。
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広島総合税理士法人