当事務所の岡本税理士が進行役を務めました『特別企画:加藤勝信自由民主党税制調査会小委員長に聞く』の記事が、中国税理士政治連盟の会報『中国税制連』2022年5月号(No.66)に掲載されました。
当HPでも、この記事を4回に渡って掲載します。
・第一回
・第二回
・第三回
・第四回
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── 私の感覚では中小企業の半分位が二〇%までになってしまうのです。だからちょっともったいないなという感想と、機械の税額控除のようにせめて一年間の繰越しが認められないかなと思っています。
〈加藤〉 考え方のひとつとしてはあるのかと思いますが、先程申し上げた我々が税調議論するときも税収そのものがどうなっていくのかという事も当然念頭に置きながら、議論させていただいております。また、先程も申し上げたように租税特別措置全般にかかる話でもあります。
── 一方、大きな改正項目の住宅ローン減税ですが、今回ZEH (ゼッチ)という言葉が新たに出てきました。ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスは特にマンションに関して私の認識では耐震性とか省エネとか向上しているものが多いので、それ以上の仕様にするというイメージで作られたのではないかと思います。先程金利が下がっているということで控除率が〇・七%に下がるけれども、一方で十年が十三年になるという措置がされています。価格の問題等もあるとは思いますが、一般住宅を建てる方が多いので減税というかローン控除が少なくなっているようなイメージを受けるのです。それは将来的にもそういう傾向になるのでしょうか? 認定住宅として認められたものを中心的に優遇して、一般住宅については国の施策も含めてそこまで重視しないというかいかがでしょうか。
〈加藤〉 今回、一%を〇・七%に下げて期間を十年から十三年にしています。控除額については、先程の賃上げ税制の時にも議論になったようにキャップがかかりますよね。本件で言えば税額控除をしようと思っても所得との関係で所得の低い人はそこまでいかないので十分に控除ができなかった。それが今回、十年が十三年になって一年間の控除額は減りますが、期間が延長にされることに伴いそれだけ所得の低い方に関してはより多くの控除ができるというメリットはあります。確か年収六百万円位の方だと借入額など色々な条件はあるのでしょうけども、総控除額が二百九十九万円だったのが三百十四万円になるというケースもあるということです。だから中所得者層・低所得者層の方にとってみると今回の措置は結果的に減税が拡大しているという見方もできるのではないかと思っております。それからやはりカーボンニュートラルを進めていく意味においても、また健康寿命の意味においても断熱性が高い住宅に住んでいただくというのは非常に効果が高いわけであります。そういう方向に住宅自体の質をシフトしていく。これは自然な流れだと思います。その中で、今後たとえば金利が上がっていった時にはどうなんだろうかという話になると思いますが、それは正直、その時の状況を見ながら議論していく。当然、その時の国や地方の財政状況を見ながら議論していくことになるのだと思います。ただ、単にそこだけを見るのではなくて、今申し上げたここに込められている、より質の高い住宅を作っていこうといった要素も加味しながら議論していかなければならないと思います。
── さて、税理士法の今回の改正に関しまして、今回の大綱の中では税理士業ICT化の推進の明確化ということと、事務所設置の規制、これはコロナ禍における出勤問題等も関係しています。他には多様な人材の確保が盛り込まれました。それぞれ具体的に税調でどのような議論がされたのでしょうか?
〈加藤〉 税調では、税理士制度の見直しの各事項について圧倒的な賛成の声が寄せられ、反対の声は聞かなかったくらいでした。結果においても税理士会からご要望いただいた税理士法に関する改正要望書の要望項目は基本的に全て実現したと認識しております。こうした議論の背景にもICT化の進展が存在していたとは思いますが、是非このような改正を行うことによって、皆さん方により時代に合った、あるいは納税者や相談される方のニーズに沿った対応をより一層図っていただけるようになることを期待したいと思っています。
── 次に先生もいろいろな所でご質問を受けられているかと思いますが、いわゆる相続税制の贈与税との一体化税の話で、今回税理士会にとっても一番注目度の高い項目でしたが見送られました。この見送られるに至った経緯をお話いただければと思います。
〈加藤〉 今の金融資産をどう活用していくかというのは、経済の成長を図るという意味でも課題になっています。実際に金融資産の多くは高齢者の方が所有され、さらに高齢者から高齢者にシフトしていく。若い世代への金融資産のシフトがなかなか進んでいないと思います。そうした中で若い世代に資産が移転することによって、より有効に積極的にいろいろなものに活用されていく。これは経済の活性化に繋がります。他方、世代間格差の固定化というのがひとつの課題になっていますから、やはりそのようなことにも十分配慮する必要があります。両方を睨みながら議論をしていく必要があります。外国の事例や現下の経済社会情勢、今行われている実態、さらにそれを実務的な観点からどう捉えていくのか、多面的な議論をしっかり行っていかないとならないことから、今回は引き続き(本格的な)検討を進めるという結論となったということです。
── それは、先程先生が仰った調査とか、実態把握に時間がかかるという理由でしょうか?
〈加藤〉 そうですね。やはりいろいろな方がいらっしゃって、例えば贈与税と相続税の場合、今は贈与税の方が高くなっているのですが、それは逆に相続財産が少ない方から見ると贈与を止めている感がするし、たくさん持っている方から見ると逆の見方もあるので、対象の方々の状況がいろいろあることの中で先程申し上げた課題をどう整理していくのか、なかなか容易ならぬものがあると思います。しかしポイントは資産移転時期の選択に中立的な税制を作っていくということ、税制の中立が常に求められている中で、この時代においてどのように実現していくのかをしっかり考えていかないといけません。
── 先生ご自身の意見としては、どのような形になると思われますか?
〈加藤〉 今の時点では、具体的な議論が税調の中で行われているわけではありません。こっちの方向だ、あっちの方向だというのは正直言い難いのが今の状況です。今、暦年課税三年と相続時精算課税制度を皆さんがそれぞれ適宜に選択されているのではないかと思いますが、そのようなことが実際に資産移転の面でどうなるのか。また他方で、格差を固定化しない、要するに税の再分配機能をどう発揮させていくのか。かなり様々な視点から議論していかないといけないと思います。
── 今の日本人の資産格差が広がっているという話が随分あります。色々な本が出ていて、ピケティの本も読んだりしましたが、日本人の資産格差が以前よりも広がっているのは実態的にそうなんですか?
〈加藤〉 資産を形成されていない方々が出てきているということは確かにあります。中間層が分かれてきているのではないかと。それから経済の成長の問題もあります。経済成長に伴いフローで獲得する所得がより大きくなりますが、低い経済成長の下、所得の伸びが止まっており、そうすると資産の承継に伴う財産・資産の違いが強く出てきます。
── ストックですね。
〈加藤〉 そういった意味では、ストックについてもよく議論していかないといけません。高度成長期のように所得が青天井のように上がっているのであれば、所得が非常に注目されています。そのような時代にしていきたいという思いはありますが、足元を見ると、代々家を持っているとか、財産を持っている人とそうじゃない人との次の世代における格差が、引き起きてしまっている面もあるのかと思っています。
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(中国税制連』2022年5月号(No.66)『特別企画:加藤勝信自由民主党税制調査会小委員長に聞く』より)
④へ続く
広島総合税理士法人