当事務所の岡本税理士が進行役を務めました『特別企画:加藤勝信自由民主党税制調査会小委員長に聞く』の記事が、中国税理士政治連盟の会報『中国税制連』2022年5月号(No.66)に掲載されました。
当HPでも、この記事を4回に渡って掲載します。
・第一回
・第二回
・第三回
・第四回
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── いろいろな階層によって考え方が違うのかもしれませんが、富裕層という人々は持っているだけで使わない。財産が増えているが稼いで増えているわけではない。ただ、贈与は相続税の低減を図るための目的もあります。贈与したからお金が回るのかと…ちょっと眉唾な面もあるのかなと思うこともありますね。
〈加藤〉 どこに注目していくかですね。経済から見れば多分若い人にお金が回った方がより使いますね。私もそうですが高齢者はだんだん使わなくなっていきます。要するに子供や孫との関係を考えればそういう世代の方が、次の次の世代のいわば教育投資にも繋がっていくという面は確かにあります。ただ、一方で格差が課題になる時代になると先程申し上げた状況になってくる。ですから社会の状況なども良く見ながら議論していかないといけないと思います。
── ところで、複式簿記の普及・一般化ということで、大綱の中に記帳水準の向上に向けた施策という項目があって、近年「フリーランス」と呼ばれている個人事業者が増加傾向にあります。税理士としてはどちらかというと忙しい時期に個人事業者の申告は、繁忙に輪をかけてしまうためあまり関心がないというか、本当はそういうところも積極的に関与すべきではあると思っているのですが、あまり手を付けにくいところでもあります。特に、記帳水準が非常に低いため時間がかかる、手間がかかるところであったり、支払い能力の関係で税理士の顧問報酬を頂きにくい現状があります。一方で、コロナ禍によりいろいろな支援金制度をお手伝いさせて頂く中で、あまりにも経理がずさんなために自らその機会を失うとか、取得しようという気すら起こらないという、非常に残念な事業者も見ているところです。記帳水準の向上について税調の中でどのような議論が出てきて、こういう施策の記述になったのかという経緯を教えていただけると幸いです。
〈加藤〉 記帳水準の向上を図る。これはまさに適正な税務申告をしていただくことの一丁目一番地です。同時にそれにとどまらず、今お話があったようにその事業者にとって、記帳するという事は客観的に経営状態を把握するということですから、それを見える化していくことは経営にも当然プラスになります。それから先程ご指摘がありましたコロナの時にいろいろな融資や補助の制度を作るわけですが、迅速な申請やそれをチェックすることに時間がかかってしまう。そういうことが実際にあったと思いますが、そういった意味でもこれを進めていただきたい。それからデジタル化の時代に入ってきて、様々な会計ソフトが出現しており、使い勝手の良いものも出てきているのではないかと思います。そういったものを上手く活用していただいて、今の時代にふさわしい仕組みを作っていただく。デジタル化を進めていくことで税務申告をはじめ税務の指導、経営に関するアドバイスも含めより対処しやすくなっていくのではないかと思います。
「電子化」と「デジタル化」は言葉を分けて使っていて、今やっている事を例えば単にパソコンの中に入れ込むのが電子化ですが、デジタル化というのは新しい時代に応じてやり方自体を変えていく、その中で記帳の水準だけでなく記帳のやり方自体が変わる可能性もある。そうすると、それが次の時代に適合した経営を生み出して、その企業の体質を強化していく。是非そのような流れと仕組みを作っていただけたらありがたいと思っております。税理士の皆さんが納税に対してだけではなく、関与先に対する経営上の支援も含めて積極的に対応していただきたいと思います。課題があればご指摘いただき、我々の中でしっかりと議論し、必要な見直しを図っていきたいと思います。
── 税務署の記帳指導の参加者が少ないという話を聞いた事があって、そのひとつの理由が会計ソフトの指導がないというものでした。仕組みは教えられても「どうやってやったらいいの」というところまで踏み込めない。つまり、当然会計ソフトというのは民間事業者なので、斡旋することができない。そこが非常に大きいのではないかなと思っています。実は毎年、国税庁のホームページのe-Taxを見ているのですが、すごく良くなっているんですね。国税庁のホームページで作る所得税の申告書は、通常の我々税理士が使っている専門の会計申告ソフトとほとんど差がないくらい良くできています。ですから申告に関してはわざわざ税理士を通さなくても、納税者にとってすごくわかりやすいですし、間違いがないように作ってあります。ただ、会計処理になるとどうしても民間会社が入ってしまうので、民間会社のソフトに対する何らかの国の支援とか教育が効果がありそうかなと、個人的には思います。
〈加藤〉 記帳指導において、個々の会計ソフトについて指導するのは難しいと思いますが、会計ソフトをしっかりと活用してもらうようにすることは大事です。
── デジタル化が求められる中、今後はインボイスへの対応も考えなければいけませんね。
〈加藤〉 インボイスに関してはいろいろな議論があることは我々も承知はしております。消費税率が複数税率であるために、それを前提とする中で、できるだけ簡素な形で進めていくことが必要と思います。それと先程の話に繋がりますけれどもITをどう活用していくのか。IT導入補助金も拡充していますし、クラウドサービスを使うことになりますから、利用料に対する補助も行われています。
また、小規模事業者向け補助金の中でもインボイス枠が今回別途作られていますので、是非こういう制度を上手く活用していただきながら、それぞれの事業者の方々に電子インボイスだけではなくて、全体としてのデジタル化を進めていただく。そして、パーツパーツでやるとさっき言われたように金と手間がかかるのですけど、今はセットになっており、しかもクラウドを使うと割と簡単で、改正があっても大元で変えてくれますからひとつひとつ修正しなくても済むという流れになってきています。そのようなものを活用していただくことが、中小企業の生産性を上げることにも繋がっていくと思っております。是非推進していただきたいと思います。また、中小企業の補助金の中には税理士の方々への相談に係る費用も補助の対象になっているので活用いただければと思います。
── 最後になりましたが、税理士への期待についてお聞かせいただきたいと思います。
〈加藤〉 冒頭に申し上げましたとおり、我が国の租税、特に申告納税制度という税制の中で、適正な納税義務を実現していくために、税理士の皆さんには大変重要な役割を担っていただいております。また、税制改正要望の建議を毎年頂戴しており、我々にとっても大変大事な建議であると認識をしています。是非、そうした活動を引き続きよろしくお願いしたいと思います。また、現場で納税者の方と直に接しておられるわけですので、そこから出てきた課題、大きなものは建議となっていると思いますが、そこに至らないものもあると思います。そのような事柄でも今日のような機会を通じて教えていただければ大変ありがたいなと思います。加えて、単に税だけではなくて、中小企業の皆さんの経営を支援する専門家として、さらにご活躍をいただきたいと強く期待をしております。今後もご活躍を期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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(中国税制連』2022年5月号(No.66)『特別企画:加藤勝信自由民主党税制調査会小委員長に聞く』より)
広島総合税理士法人