最近はクライアントの企業再編に関する相談、ホールディングス体制移行に関する相談、クライアントに後継者がいないために会社を売却する相談等が増えており、当法人でもこうした傾向に連動して「いわゆるM&Aに係る業務」が増加しています。また、クライアントの中には積極的に会社を買い取る方針の会社が実際にM&Aにより株式を取得するケースが増加しています。
企業買収を行うにあたってはデューデリジェンス(DD業務)を行うのが一般的です。
DD業務とは、会計事務所や法律事務所が行う買収先の財務内容や法的リスクの有無などの調査作業のことを言います。こうした調査費用の会計処理や税務処理についての取り扱いが問題となることが多くなってきていますので、本コラムにおいてまとめてみました。
Ⅰ.会計処理
(連結財務諸表上の処理と個別財務諸表上の処理が異なりますが、このコラムでは個別財務諸表上の処理に絞って記載します。)
個別財務諸表上の付随費用については、「個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、従来と同様に、金融商品会計基準及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」に従って算定することに留意するとされています。(企業結合会計基準94項)
従って、契約が成立した場合の財務調査費用は株式の取得に係る付随費用として子会社株式の取得原価に含めることになり、一方、契約が成立しなかった場合の財務調査費用は費用処理することになると考えられます。
Ⅱ.税務処理
法人税法施行令第119条において、「内国法人が有価証券を取得した場合には、その取得価額はその購入の対価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用を加算した金額)による」と規定されています。
M&Aに係る財務調査費用が付随費用に該当するかの判断が問題になります。
現在の実務においては、株式を購入するかどうかの意思決定を行うタイミングとの関係を考慮して判断しています。
すなわち、
①株式を購入の意思決定を行う前の段階の財務調査費用は、購入するかどうかの意思決定を判断するための費用であり、購入のために要した費用に該当しないのではないか
②株式を購入する意思決定後の財務調査費用は、購入することを前提として生じる費用であることから、その株式の購入のために要した付随費用として所得価額に含まれるもの
として考えられます。
また、この論点における国税不服審判所の裁決事例等を読んでおく必要があります。
特に「平成22年2月8日付国税不服審判所福岡支部裁決」は必須ですね。
しかし、個々のケースではこうした判断は非常に難しく慎重に判断する必要があります。
M&A実務において、取得の意思決定をしたタイミングや調査の目的は様々です。個々の事例において、どのような税務処理を行うかは慎重な判断を要し、株式取得の意思決定の経緯や調査の目的や業務提供時期、支出目的等をきちんと整理し文書化しておく必要があります。
最近の税務調査において論点になっていますので、M&Aを行う際には顧問税理士さんに事前に相談したうえで行いことをお勧めします。
広島総合税理士法人