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広島税理士のひとりごと『DIE WITH ZERO-ゼロで死ぬ-』

2023/11/05 [SUN]
やや過激なタイトルではあるが、
最近ベストセラーにもなった、海外書籍であり、私も読んでみた。
率直な感想としては、なかなかに面白い。
 
要するに、昔からある古典的なテーマである、
「金は死んだらあの世には持っていけない」
「死ぬまでに自分のやりたいことに使い切ろう」、
という思想を前提に、
ため込むことなく使うことで人生が豊かになる理由と
想定される反論に対するカウンターとが用意される。
 
気になる人は本書を手に取ってみるといいが、
税理士として気になるのは、相続税だ。
 
仮に自身が死ぬときにゼロになっているのであれば、
相続税はかからない。相続させるような財産がないからだ。
 
近年、本屋の雑誌コーナーでは、
「今から始めたい相続対策」や
「おひとり様でも困らない相続」だとかの特集があふれている。
 
それらは財産を持ち過ぎてしまうことに起因する問題であり、
ちょっきりゼロでなくでも、それに近付けていくことで、
相続をどうしていくかという問題は少なくなっていくのかもしれない。
 
しかし、事は単純ではなく、
売るに売れない(売りにくい)財産、株式や不動産などがあり、
相続人が複数いれば、もめないように納税用の現金も相応に用意して・・・
考えれば考えるほど悩ましい問題が発生していく。
 
ただし、本書はそれらの継承せざるを得ない財産についても、
自分が生きてるうちに、(贈与税の問題はあるが)相続人にさっさとやれと説く。
どうせやるなら相続を待つまでもなく、要不要の別はあれ、
金から価値を引き出す力は若いほうが高いのだから、(一定の年齢は必要だが)早く渡すに越したことはない、と。
 
確かに若い世代であればあるほど出費は多く、
資金的な裏付けがあれば、より充足した生活(物質的にも経験的にも)が送れるのかもしれない。
 
これらは経済の観点からしても興味深い。
若い世代はフローを稼いでも、税金や社会保険料で相当程度控除され、
可処分所得としてはかなり圧縮され、世代が若ければ若いほど、いろんなものを諦める。
対して円熟世代は比較的高い年金を得、人によっては継続したインフローを持ち、
日本の金融資産の6割超を継続的に保有するなど留保に余念がない(気持ちはよくわかる、将来不安なのだ)。
 
この1割でも2割でも、相続より早い段階で若い世代に移り、
その若い世代が必要なものに消費・投資し始めると、経済は回る。
経済が回り始めると、将来の不安が徐々に薄らいでいく。
結果としてZEROもしくはZEROに近い状態になれるのかもしれない。
 
ただ今の生前贈与は相続税の補完する立ち位置であり、
相続税より圧倒的に贈与税の税率の方が、各種特例等はあれど、基本的には高い。
富裕層優遇になるなど、いろんな理由はあるが、これでは富の世代間移転は起きない。
 
目の前の税金を取りっぱぐれるのがそんなに嫌か
母集団を大きくして取り分増やす発想はないのか
 
 
さて、かくいう私も預金通帳の数字が増えるのをにんまり見つめる趣味はないが、
お金を使うのを原則的には憚るタイプだ。
 
読了後、筆者が説く、
 「人はいつか死ぬ(金は無価値になる)」
 「人生は経験がすべて」
 「経験は配当をもたらす」
という考えに、やや心持ちが変わってきていると実感する。
 
バランスを取りながら、自分なりの“ZERO”を考えてみたいと思う。
 
 
広島総合税理士法人