トピックス

広島税理士のひとりごと『中堅企業者って何?』

2024/07/15 [MON]
2024年5月31日に産業競争力強化法の改正法が参議院本会議で可決・成立しました。この中の「中堅企業者」は全国で約7,700社、中国地方で約260社ほどが該当になるようです(2024.7.6日経新聞)。
こちら改正法で「中堅企業者」の定義が盛り込まれましたので内容、税法(令和6年税制改正)との関連について解説します。
 
内容
⑴改正・産業競争力強化法
⑵税法の中小企業者等と産業競争力強化法の中小企業者とは違う
⑶中堅企業者の関係する税制
  ①賃上げ促進税制
  ②中小企業事業再編投資損失準備金
 

 
⑴改正・産業競争力強化法
第二条㉔ この法律において「中堅企業者」とは、常時使用する従業員の数が二千人以下の会社及び個人(中小企業者を除く。)をいう。
 
産業競争力強化法(以下、産競法)における中小企業者(産業競争力強化法2㉓※条文は下記参照)となるには、業種で基準が異なり資本金3億以下~5千万円以下の間で複数の基準があります。
税法では基本的に資本金1億円が基準ですので、税法頭を切り替えて確認しましょう。
改正法では例えば、製造業で資本金3億超の会社であって、その従業員が2千人以下であれば「中堅企業者」となります。また産競法では「中堅企業者」は中小企業者を除くともされ、両者は重複しません。

⑵税法の中小企業者等と産業競争力強化法の中小企業者とは違う
 
税法でいう「中堅企業者」の理解のためには、下記の中小企業者の理解も欠かせません。
税法(ここでは租税特別措置法)のいう中小企業者は、租税特別措置法第四十二の四⑲七(試験研究を行つた場合の法人税額の特別控除)で、政令租税特別措置法施行令第二十七の四⑰で定める法人としています。
条文は下記も参照してください。単体資本金が1億円以下(この他、資本金1億円超の大規模法人に50%以上支配されていない、資本金5億円超の大法人と完全支配関係にない等)の法人が中小企業者等となります。
例えば、資本金が3億円の製造業、従業員数基準300人以下の株式会社は産競法においては中小企業ですが、税法においては資本金が1億超のため中小企業者にあたりません。
⑶①と②で紹介の税制は、はこちらの定義を引用しています。

 
⑶中堅企業者の関係する税制
 
税法では「中堅企業者」そのものの定義を設けていません。
2千人以下を含む基準をそれぞれの税制でどのように表現しているかを整理してみました。
 
①賃上げ促進税制
令和6年度税制改正により、「中堅企業者」のカテゴリーが創設とされています。
なお、当制度では「中堅企業者」ではなく下記のように「特定法人」として定義づけしています。
 
租税特別措置法第四十二条の十二の五⑤
十 特定法人 常時使用する従業員の数が二千人以下の法人(当該法人及び当該法人との間に当該法人による法人税法第二条第十二号の七の五に規定する支配関係がある他の法人の常時使用する従業員の数の合計数が一万人を超えるものを除く。)をいう。
 
新たに「中堅企業者(正確には「特定法人」)」のカテゴリーが設けられたことで、該当すれば全法人対象の制度より有利な要件、控除率による税額控除が選択可能になります。
旧法では中小企業者等向け制度と全法人対象の制度とがあり、中小企業者等が両制度から有利選択が可能でした。
(※中小企業者等は要件がやさしく、かつ、控除率が有利な中小企業向けの制度を採用する、という運用が実際のところです。)
 
新法では例えば、資本金3億円で従業員数301人の会社は、「中堅企業者」の制度の適用が可能となり、全法人対象の制度の2つから有利選択することとなる訳です。
なお、資本金1億円以下の中小企業者は「中堅企業者」の制度をもちろん選択でき、全法人対象の制度、中小企業者の制度の3つから有利選択することとなります。
 
 
②中小企業事業再編投資損失準備金
 
令和6年度税制改正により産競法の特別事業再編計画の認定を受けた場合等に、「中堅企業者」と中小企業者とは投資損失準備金制度の拡充措置が可能となりました。
以下は拡充措置に絞った解説です。
 
中小企業庁『中小企業事業再編投資損失準備金(中堅・中小グループ化税制)』
要件は複数回のM&Aの実施など多岐にわたりますが当コラムでは割愛します。
 
租税特別措置法第五十六条①の表 第一欄
二 新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律(令和六年法律第45号)の施行の日から令和九年三月三十一日までの間に産業競争力強化法第二十四条の二第一項に規定する特別事業再編計画(以下この号において「特別事業再編計画」という。)について同項の認定を受けた同法第四十六条の二に規定する認定特別事業再編事業者である法人
 
産競法第二十四条の二のいう特別事業再編計画は、同法第二条⑱のいう従業員数が2千人以下等の中小企業者と「中堅企業者」が作成し認定を受けることができます。
税法では、両者がその認定を受ければ認定特別事業再編事業者となることができます。
すなわち拡充措置の対象は産競法を引用し2千人基準により判定し、資本金の1億以下か否かで判定しません。

 
まとめ
税法ではあえて「中堅企業者」の定義を設けず、2千人以下の基準を引用しながら、中小企業者に中小企業者と中堅企業者とに対する2制度の選択適用が可能になっているともいえます。
この検討による遠回り感を踏まえ、改めて「税法は1読して難解、2読して誤解、3読して不可解」を感じ得ません。
産業競争力強化法も絡むのであれば、例えるなら条文の樹海…
 
以上
広島総合税理士法人 税理士
 
 
※補足1:従来の経営力向上計画による場合は(租税特別措置法第五十六条①の表第一欄一)、中小企業者に限られますので、依然として資本金は1億円以下の会社などに限られます。
※補足2:執筆時(2024.7.1)において特別事業再編計画の具体的な要件が明らかでなく、2千人以下以外の要件は公表後に要確認。
※補足3:条文
産業競争力強化法
第二条⑱
この法律において「特別事業再編」とは、事業再編のうち、中小企業者(常時使用する従業員の数が二千人以下のものに限る。)又は中堅企業者であって、他の事業者(当該中小企業者又は当該中堅企業者の関係事業者及び外国関係法人を除く。以下この項、第二十四条の二及び第二十四条の三第二項において同じ。)の経営の支配又は経営資源の取得(主務省令で定める要件を満たすものに限る。第二十四条の二第三項第四号及び第六項第三号において同じ。)を行ったことがあるものが、当該他の事業者以外の他の事業者の経営資源を自らの経営資源と一体的に活用し、新たな需要を相当程度開拓することを目的として、次に掲げる措置により事業の全部又は一部の構造の変更を行うものをいう。
… 
六 他の会社の株式又は持分の取得(当該他の会社の総株主又は総出資者の議決権の百分の五十を超える議決権を保有することとなるものに限る。)
 
同条㉔
この法律において「中堅企業者」とは、常時使用する従業員の数が二千人以下の会社及び個人(中小企業者を除く。)をいう。
 
第二十四条の二
事業者は、その実施しようとする特別事業再編に関する計画(以下「特別事業再編計画」という。)を作成し、主務省令で定めるところにより、これを主務大臣に提出して、その認定を受けることができる。…
 
第四十六条の二
認定特別事業再編計画に従って実施される特別事業再編(生産性の向上及び需要の開拓に特に資するものとして主務大臣が定める基準に適合することについて主務大臣の確認を受けたものに限る。)を行う認定特別事業再編事業者が当該特別事業再編のために行う措置(第二条第十八項第六号に掲げる措置に限る。)として取得をした株式又は持分及び当該特別事業再編に伴う登記については、租税特別措置法で定めるところにより、課税の特例の適用があるものとする。
 
租税特別措置法施行令二十七の四⑰
法第四十二条の四第十九項第七号に規定する政令で定めるものは、資本金の額若しくは出資金の額が一億円以下の法人のうち次に掲げる法人以外の法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が千人以下の法人(当該法人が通算親法人である場合には、第三号に掲げる法人を除く。)とする。
一 その発行済株式又は出資(その有する自己の株式又は出資を除く。次号において同じ。)の総数又は総額の二分の一以上が同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が一億円を超える法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が千人を超える法人又は次に掲げる法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除く。次号において同じ。)の所有に属している法人
イ 大法人(次に掲げる法人をいう。以下この号において同じ。)との間に当該大法人による完全支配関係(法人税法第二条第十二号の七の六に規定する完全支配関係をいう。ロにおいて同じ。)がある普通法人
(1) 資本金の額又は出資金の額が五億円以上である法人
(2) 保険業法第二条第五項に規定する相互会社及び同条第十項に規定する外国相互会社のうち、常時使用する従業員の数が千人を超える法人
(3) 法人税法第四条の三に規定する受託法人
ロ 普通法人との間に完全支配関係がある全ての大法人が有する株式(投資信託及び投資法人に関する法律第二条第十四項に規定する投資口を含む。以下この章において同じ。)及び出資の全部を当該全ての大法人のうちいずれか一の法人が有するものとみなした場合において当該いずれか一の法人と当該普通法人との間に当該いずれか一の法人による完全支配関係があることとなるときの当該普通法人(イに掲げる法人を除く。)
二 前号に掲げるもののほか、その発行済株式又は出資の総数又は総額の三分の二以上が大規模法人の所有に属している法人
三 他の通算法人のうちいずれかの法人が次に掲げる法人に該当しない場合における通算法人
イ 資本金の額又は出資金の額が一億円以下の法人のうち前二号に掲げる法人以外の法人
ロ 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が千人以下の法人